「やろうと思ったのに、できなかった」
そんな経験はありませんか?
実行意図(Implementation Intentions)は、この「できなかった」を減らすためのシンプルかつ強力な方法です。
心理学者のピーター・ゴルウィッツァー(Peter M. Gollwitzer)によって提唱されたこの概念は、目標達成を助けるための 「if-then」計画 です。
たとえば
- 目標意図:「毎朝運動しよう」
- 実行意図:「もし朝7時になったら、ヨガマットを広げてストレッチをする」
同じようで違います。
シンプルですが、実行意図の「if-then」の形式の方が驚くほど効果的。
単に「運動しよう」と思うだけよりも、具体的な行動のタイミングと方法を決めることで、実行率が大きく向上するのです。
何故目標は達成しにくいのか?
私たちはよく、「頑張る!」と決意します。
でも、なぜか続かない。
それは意志力の問題だけではありません。
心理学的には、目標達成には 2つの大きな障壁 があるのです。
1. 目標意図と行動のギャップ
目標意図(例えば「運動するつもり」)は、そのままでは行動にはつながりません。
実際、研究では「良い意図」を持つ人のうち、 53% しか行動に移せていないことが示されています(Sheeran, 2002)。
良い意図だけでは不十分なのです。
2. 自己調整の問題
たとえ目標を持っても、実行に移すのが難しいことがあります。
例えば…
- チャンスを逃してしまう
- やろうと思ったことを忘れる
- 気分に流されてしまう
これらは、意志力や決断力だけで解決できる問題ではありません。
ここで実施意図が活きてきます。
【実行意図の効果】なぜこれが効くのか?
実行意図は、「目標を達成したい」から「どう実行するか」に焦点を移します。
これにより、次の3つの効果が得られます。
自動化された行動
実行意図は、特定の状況に自動的に反応するように設定されます。
たとえば、「朝7時になったらヨガマットを広げる」という計画を立てると、毎朝無意識にその行動を繰り返すことができます。
チャンスの認識が向上
実行意図を設定すると、設定したタイミングや状況に敏感になります。
「朝7時」というキーワードが頭に残り、無意識にその時間に行動しやすくなるのです。
意志力を節約できる
実行意図は「自動化」された行動であるため、意志力を消耗しません。
これは「自我の枯渇(Ego Depletion)」の影響を防ぐ効果があります。
意志力は限られたリソースですが、実行意図で自動化することで、それを節約できます。
実行意図を効果的に使う3つのステップ
ステップ1:明確な目標を設定する
- 「週3回、朝に運動する」
- 「毎日30分読書する」
ステップ2:実行意図を設定する
「もし〇〇になったら、△△する」(if-then)という形にする。
- 「もし朝7時になったら、ヨガマットを広げてストレッチする」
ステップ3:意志力を節約する
迷わず行動できるように準備する 。
目標を「やるかどうかを悩む選択肢」から外し、自動的に実行できるようにします。
- 朝起きたらヨガマットが見える場所に置いておく
これで、目覚めた瞬間にマットを広げるのが自然な流れになります。
実行意図の効果を最大限に活かすための3つのポイント
実行意図は強力なツールですが、万能ではありません。
効果を最大化するためには、いくつかのポイントに注意が必要です。
1. 目標は具体的に設定する
「健康的に過ごす」では曖昧すぎます。代わりに「朝7時にヨガをする」と具体的に決めましょう。目標が明確であればあるほど、実行意図は効果を発揮します。
2. 強い目標意図が前提
実行意図は、もともと「この目標を達成したい」という気持ちがあるときに効果を発揮します。
興味のない目標には、いくら実行意図を設定しても続きません。
3. 自己調整が難しい場合はサポートを追加
強い誘惑や気分の波がある場合、実行意図だけでは十分でないことも。
たとえば、家族や友人に応援をお願いしたり、目標を小さく分割して段階的に進める方法も検討しましょう。
オススメ図書
参考文献
Gollwitzer, P. M. (1999). Implementation Intentions: Strong Effects of Simple Plans. American Psychologist, 54(7), 493–503.